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Feature — これからの未来

未来志向・未来思考とは?
Tomorrowmindが示す3つの違いと高め方

同じようで、指しているものが違う。3つの言葉を層に分けて整理すると、「自分は何を鍛えればいいのか」がはっきりします。

執筆:これからの生き方 編集部 監修:徳吉陽河(『これからの生き方』監訳・解説) 公開:2026年8月29日 最終更新:2026年8月29日
ANSWER未来思考は「まだない場面を心の中で組み立てる働き」、未来志向は「その働きをどれくらい未来へ向けるかという構え」、Tomorrowmindは「変化の時代に活き活きと働き続けるための力の総体」です。3つは対立する概念ではなく、内側から外側へ入れ子になっています。働きは誰にでもあり、構えには個人差があり、総体は育てられます。

この記事でわかること

  1. 1. 3つの言葉は、層が違う
  2. 2. 未来思考とは — 誰にでもある心の働き
  3. 3. 未来志向とは — 時間に対する構え
  4. 4. Tomorrowmindとは — 力の総体
  5. 5. なぜ今、この力が問われるのか
  6. 6. 高める4つの実践
  7. 7. 未来志向の落とし穴
  8. 8. 自分の現在地を確かめる
  9. よくある質問
  10. 出典・参考文献

1. 3つの言葉は、層が違う

「未来志向を高めましょう」「これからは未来思考が必要です」——よく見かける言い方ですが、この2つはしばしば同じ意味で使われます。そして『これからの生き方』(原題 Tomorrowmind)が扱っているのは、そのどちらとも少し違うものです。

混乱の理由は単純で、3つが同じ平面に並ぶ選択肢ではなく、入れ子の層になっているからです。図にすると、こうなります。

LAYER 3 — 力の総体

Tomorrowmind(これからを生きる心の装備)

変化が止まらない環境で、消耗せずに働き続け、成果を出し続けるための力の集まり。プロスペクション/レジリエンス/イノベーション/ソーシャルコネクト/マタリングの5つ(PRISM)で構成されます。未来を描く力は、そのうちのひとつです。

LAYER 2 — 構え・傾向

未来志向(Future Orientation)

心の時間を、どれくらい未来に向けるか。過去を振り返りがちな人、いまを味わう人、先を考え続ける人——時間の使い方には癖があり、個人差があります。心理学では「時間的展望」として研究されてきました。

LAYER 1 — 認知の働き

未来思考(Future Thinking / Prospection)

まだ起きていない場面を、心の中で組み立てる働きそのもの。訓練の有無にかかわらず、人間の脳に備わっています。

機能があり(層1)、その向け方に癖があり(層2)、それらを含む装備一式がある(層3)。

3つの概念の比較
未来思考未来志向Tomorrowmind
正体認知の機能性格・態度の傾向力の集合(能力セット)
問いどう思い描くかどれだけ未来を見るか変化の中で活き活きできるか
個人差小さい(誰にでもある)大きい大きい
主な理論エピソード的未来思考/ホモ・プロスペクタス時間的展望理論PRISM(5つの力)
鍛え方書く・具体化する時間軸のバランスを整える5つのうち弱い一点から

2. 未来思考とは — 誰にでもある心の働き

人間を特徴づけるのは記憶よりも、むしろ先を思い描く働きのほうかもしれない——セリグマンらは、そう主張しました。彼らは人間を「ホモ・サピエンス(知る人)」ではなく「ホモ・プロスペクタス(先を見る人)」と呼び直すことを提案しています(Seligman et al., 2016)。

実際、日常生活での思考を随時サンプリングした研究では、未来についての思考は過去についての思考よりもはるかに頻繁に現れ、しかもその多くが「これからどう動くか」という実務的な準備に向けられていました(Baumeister et al., 2020)。人は好んで未来を夢想しているのではなく、行動の準備として絶えず先を計算しているわけです。

興味深いのは、未来を思い描く働きが、記憶をつかさどる脳の仕組みと大きく重なっていることです。「エピソード的未来思考」の研究では、未来の場面をイメージすることは、過去の経験の断片を組み替えて新しい場面を構成する作業として理解されています(Schacter et al., 2017)。

ここから、実務的に重要なことがひとつ導けます。経験や情報が乏しい領域では、未来は描きにくい。「将来のビジョンが浮かばない」のは意欲や才能の問題ではなく、多くの場合、材料が足りないだけです。材料が増えれば、描ける未来の解像度は上がります。

→ プロスペクション(未来を描く力)をくわしく見る

3. 未来志向とは — 時間に対する構え

働きは誰にでもあるのに、人によって「先を考える度合い」がまるで違う。この差を扱ってきたのが、時間的展望(time perspective)の研究です。

ジンバルドーらは、人が過去・現在・未来のどこに重心を置いているかを多次元で測る枠組みを提示しました。過去を肯定的に振り返る人、過去に否定的にとらわれる人、いまの快を優先する人、運命論的にいまを受け入れる人、そして将来の目標のためにいまを組み立てる人。これらは能力の高低ではなく、時間の使い方の型です。

日本でも、未来だけでなく現在と過去の体験まで含めて測る尺度が作られており、希望や目標指向性といった側面が扱われてきました(白井, 1994)。未来志向は「先のことを考える量」ではなく、希望を伴って未来を見られるかどうかという質の問題でもあるわけです。

未来の自分を、他人だと思っていないか

未来志向の研究で、実務的にもっとも示唆的なもののひとつが「未来自己連続性」です。10年後の自分を「いまの自分の延長」として感じられる人ほど、将来のための資産をより多く積み上げていました(Ersner-Hershfield et al., 2009)。

逆に言えば、未来の自分が他人のように感じられているとき、人は将来のための行動をとりにくくなります。学び直しが進まない、健康の習慣が続かない。その原因は意志の弱さではなく、「その恩恵を受け取る人物が、自分だと感じられていない」ことかもしれません。

4. Tomorrowmindとは — 力の総体

では『これからの生き方』が提示する Tomorrowmind は、どこに位置するのか。

ケラーマンとセリグマンが問題にしたのは、個人の資質そのものではなく、働く環境が根本から変わってしまったことでした。職務の中身が数年で書き換わり、所属する組織も、一緒に働く相手も入れ替わり続ける。そこで消耗せずに働き続けるには、特定のスキルではなく、変化そのものに対処する心の装備が要ります。

その装備を5つに整理したのが PRISM です。

担っている役割
Prospection
プロスペクション
先を思い描き、複数の可能性を比べて、いまの一歩を決める
Resilience
レジリエンス
うまくいかなかったあと、立ち直って再び動き出す
Innovation
イノベーション
前例のない問題に、新しい組み合わせで応える
Social Support
ソーシャルコネクト
短い時間で信頼をつくり、支え合える関係を持つ
Mattering
マタリング
自分の仕事が誰かにとって意味を持っている、と感じられる

ここで大事なのは、未来志向だけでは足りないという点です。先が見えていても、つまずいたときに立ち直れなければ前に進めません。立ち直れても、支えてくれる人がいなければ消耗します。5つは独立した項目ではなく、互いを支える構造として提示されています。

だからこそ、伸ばすべきはいちばん弱い一点です。強いところをさらに強くしても、全体の耐久力は上がりません。

本書ではどう説明されているか

『これからの生き方』では、未来を思い描く力を第8章「プロスペクション(未来予想力)― 21世紀における超越した力」で扱っています。人間が先を見る働きを、他の能力とは別格の位置づけで論じている章です。5つの力の全体像は、本の構成そのものに対応しています。

→ 各章の紹介を見る / → 読み方ガイド

5. なぜ今、この力が問われるのか

先が読めない環境で「正解の道」を探そうとすると、人は動けなくなります。何が起きるかわからないのだから、当然の反応です。

AIをめぐる不安が典型でしょう。「この仕事はなくなるのか、残るのか」という問いは、答えが出るまで行動を止めてしまいます。しかしこの問いは、そもそもいま答えの出ない問いです。

未来思考の視点では、問いの立て方が変わります。「なくなるか/残るか」ではなく、「Aが起きたらこうする、Bが起きたらこうする」。複数の未来を同時に持っておける人は、実際に何が起きても対応を始められます。ひとつの未来しか描いていない人は、それが外れた瞬間に立ち止まります。

不確実性そのものは減らせません。減らせるのは、不確実性に対する準備不足のほうです。そして準備は、未来を当てなくてもできます。

企業がシナリオ・プランニングという手法を使うのも、同じ理屈です。ひとつの予測に賭けるのではなく、複数の筋書きを用意して、どれが来ても動けるようにしておく(Schoemaker, 1995)。個人がやるべきことも、規模が違うだけで構造は変わりません。

→ AIに仕事を奪われそうで怖いとき / → 将来が不安で眠れないとき

6. 高める4つの実践

未来を扱う方法は、大きく「書く」「比べる」「備える」の3種類に整理できます。以下は、効果が実証的に検討されてきた代表的な4つです。

01 / 書く / 15分・週1回

ベスト・ポッシブル・セルフ(うまくいった未来を書く)

すべてが望みどおりに運んだ数年後の自分を、15分かけて書き出します。職業名や肩書きではなく、平日の午前中に、どこで、誰と、何をしているかまで具体的に書くのがコツです。

この課題は複数の研究でくり返し検討されており、メタ分析ではウェルビーイング、楽観性、ポジティブ感情に小〜中程度の効果が確認されています(Carrillo et al., 2019)。1回で完結させず、週に1度書き直すと、輪郭が少しずつはっきりしていきます。

→ 実践ページで手順を見る

02 / 備える / 5分

WOOP(願い・成果・障害・計画)

望む成果を思い描いたあと、あえてそれを妨げる自分の内側の障害をひとつ挙げます。そして「もし◯◯が起きたら、△△する」という形の計画に変換します。

ポジティブな未来を描くだけでは行動が変わらないことがあります。望む未来と現実の障害を突き合わせ、対処をあらかじめ決めておく方法は、目標達成に対して小〜中程度の効果が報告されています(Wang et al., 2021)。所要5分、通勤中でもできます。

03 / 比べる / 20分

3つのシナリオを書く

最良・最悪・最もありそうな未来を、それぞれ3行ずつ書きます。最悪を書くのは悲観ではなく、備えです。書いた瞬間に、漠然とした不安が具体的な対処に変わります。

3つ並べると、多くの場合「最もありそうな未来」が意外に扱いやすいことに気づきます。不安は、最悪のシナリオを言語化しないまま抱えているときに、いちばん重くなります。

04 / 備える / 30分・チーム向け

プレモータム(失敗したと仮定して理由を挙げる)

「この計画は1年後に失敗しました。理由を挙げてください」——そう前置きしてから議論します。まだ起きていないことをすでに起きたこととして語ると、リスクが具体的に見えるようになります(Klein, 2007)。

「うまくいかないかもしれません」と言い出しにくいチームでも、この形式なら発言が出ます。未来思考は個人の頭の中だけでなく、会議の設計にも組み込めます。

→ チームで使う

7. 未来志向の落とし穴

未来を見る力は、そのまま裏返すと消耗の原因にもなります。よくあるつまずきは4つです。

落とし穴起きていること手当て
不安が回り続ける未来を鮮明に描けるがゆえに、起きていない失敗までリアルに見える頭の中で回さず紙に出す。まず1週間先だけを見る
いまが空洞になる未来のためだけに現在を手段化し、味わう時間が消える時間軸を意図的に戻す。今日よかったことを3つ書く
ひとつの未来に賭ける単一の筋書きに最適化し、外れた瞬間に動けなくなるシナリオを3つ持つ(本記事6-03)
そもそも描けない余裕がなく、材料も足りない状態で無理に描こうとしている睡眠と休息を先に整える。情報と経験を増やす

とくに4つ目は誤解されやすいところです。未来を思い描くには、ある程度の心の余裕が要ります。目の前のことに手一杯なとき先が見えなくなるのは、能力の問題ではなく自然な反応です。そういうときに整えるべきは、未来のことではなく足元のほうかもしれません。

時間的展望は「強さ」ではなく「バランス」 未来志向は、高ければ高いほどよいというものではありません。時間的展望の研究では、過去・現在・未来のどれかに固定されるより、状況に応じて視点を移せる状態のほうが良好な適応と結びつくと考えられています。未来を見る練習と同じくらい、いまに戻る練習も必要です。

8. 自分の現在地を確かめる

ここまで読んで「自分はどのあたりだろう」と思ったなら、測ってみるのが早道です。未来を描く力は、5つの力のうちのひとつとして確認できます。

大事なのは点数の高さではなく、5つのうちどこが弱いかです。未来が描けない原因が、実は「立ち直る力」や「支えてくれる人」の側にあることは珍しくありません。

PRISM尺度(全15問)を受ける

→ ほかの診断を見る(VUCA自己効力感尺度・組織におけるマタリング(重要感)尺度)

よくある質問

未来志向と未来思考は同じ意味ですか?
厳密には違います。未来思考は「まだない場面を心の中で組み立てる働き」そのもので、誰にでも備わっている認知機能です。未来志向は「その働きをどれくらい、どんなふうに未来へ向けるか」という構えや傾向を指し、人によって差があります。カメラの機能と、そのカメラをどこに向ける癖があるかの違いだと考えるとわかりやすいでしょう。
未来志向は強ければ強いほどよいのですか?
そうとは限りません。時間的展望の研究では、過去・現在・未来のどれかに偏るより、状況に応じて視点を移せる「バランスのとれた時間的展望」のほうが良好な適応と結びつくとされています。未来だけを見続けると、いまを味わう時間が削られ、疲れやすくなります。
未来を考えると不安になります。それでも未来志向を高めるべきですか?
未来を鮮明に描ける人ほど、まだ起きていない失敗までリアルに見えます。不安が強いときは、遠くではなく1週間先から始めてください。また、頭の中で回し続けるのではなく紙に書き出すと、漠然とした不安が具体的な対処に変わります。強い不安が続く場合は、未来を扱う前に睡眠や休息を整えるほうが先です。
Tomorrowmindは生まれつきの資質ですか?
資質ではなく、育てられる力の集まりとして提示されています。原著では、プロスペクション、レジリエンス、イノベーション、ソーシャルコネクト、マタリングという5つの力(PRISM)が、訓練や環境づくりによって伸ばせるものとして扱われています。
未来志向は測れますか?
測定する尺度は複数あります。時間的展望の研究では、過去・現在・未来への向き合い方を多次元で測る尺度が用いられてきました。このサイトでは、未来を描く力を含む5つの力の状態をまとめて確認できるPRISM尺度(全15問)を公開しています。

出典・参考文献

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